評論家N氏の
『マーケットを斬る』


平成17年07月04日(月)



夏場にかけ相場はジリ高へ 日経平均株価は1万2000円を試す展開


 株式相場は夏場にかけてジリ高が続くのではないか。足元では需給環境の改善が見え始め、各経済指標からはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の底堅さが見て取れることが好材料だ。

 7月から8月にかけて企業収益の上方修正見通しなどが出てくれば、日経平均株価は1万2000円を試す機会もありそうだ。

 ここにきて外国人投資家と個人投資家の買い意欲が強まっている。欧米の株価水準に比べた出遅れ感に外国人が着目している。個人の個別物色は依然として旺盛。3兆円を大きく超えていた信用買い残が徐々に減少し、需給面での重しも解消しつつある。

 5月の景気ウォッチャー調査で、街角の景況感を示す現状判断指数が5ヵ月連続で改善したほか、4、6月期の法人企業景気予測調査などの数値も改善の兆しがある。国内景気の回復を示す指標が続いていることが、投資家の買い安心感につながっている。

 ただ、2006年3月期の経常増益率は前年同期比で鈍化するとみられており、一本調子の株価上昇は難しそう。日経平均が1万2000円を超えて推移するには、今期の企業業績見通しが上方修正されることや、米利上げの打ち止めといった支援材料が必要となろう。

 さて、これから本番を迎える夏場は、特に消費者の行動がはっきりする。猛暑なら飲料やエアコンの販売が盛り上がるし、好天が続けば旅行者や買い物客が増える。巡り巡って企業収益や株価を押し上げる訳だ。某大手のエコノミストは夏の平均気温が1度上がると2200億円の経済効果があると指摘。猛暑だった1994年と昨年は夏場の国内生産(GDP)をそれぞれ0.7%、0.4%押し上げたという。

 ただ、株価との関係は一筋縄ではいかない。99年以降のデータを6月から9月までに絞って分析すると、最高気温が平年より高く、その気温が30度以下だった日の株価騰落率は0.09%上昇。しかし、30度を超えると0.17%下落。

 一定以上の暑さは体調への悪影響などから消費活動を停滞させる面もある。同時に投資家自身が不快感を募らせ、判断能力が鈍るのかもしれない。いずれにせよ猛暑は相場の敵とデータは語る。



帝人(3401)

収益改善が加速、営業利益1,000億円も通過点 ドイツ証券が620円目標に積極推進


 帝人の収益改善が加速している。2006年3月期の連結営業利益は前期比25%増の650億円になりそうだ。前期に海外の不採算事業から撤退した衣料繊維が黒字転換することに加え、技術力で優位にある産業繊維、ポリカボネート(PC)樹脂などが伸びる。

 野村証券では安定成長企業に脱皮が進むと評価。高値追いの姿勢を堅持している。直近ではドイツ証券も今、来期の業績は「三位一体の大幅増益が続く」と予測。投資評価を「Buy」(買い)、目標株価を620円に引き上げ腰入れの構えだ。

 同社の歴史は、事業拡大とその整理の繰り返しに特徴がある。レーヨン繊維からポリエステル繊維中心の事業構造へ転換することに成功し、事業基盤を固める高度成長期までは比較的順調だった。

 1970年代に入ると未来事業部の主導で、食品、化粧品、医薬、学習塾、自動車販売、資源、住宅など、あらゆる事業へ進出している。同時に繊維事業の海外進出も加速された。しかし、成功したのは医薬ぐらいであり、80年代はそれらの整理に追われた。

 一方で財務体質の強化には成功し、90年度からの中期計画で積極投資に転じた。92年は社内の革新運動が推進されるなど、積極性を取り戻すことが課題とされた時代であった。しかし、ポリエステル繊維やフィルムの拡大の成果は芳しくなく、97年までは守りの経営に軸を移し、財務強化が図られた。

 その後、アジア通貨危機を乗り越えてからは再び積極策に転じ、02年までM&A(企業の合併・買収)を多用する事業拡大期に入った。しかし、成功したのはアラミド繊維の買収程度であり、02年以降は米国フィルム事業のリストラに代表されるように、守りの姿勢に転換している。

 その最終仕上げが、3月末に発表されたメキシコポリエステル繊維事業からの撤収である。単独決算で計上した400億円を超す特別損失は歴史的な大損害だが、それだけの不採算事業を整理したことは、帝人が好転するための重要な契機になると評価されよう。

 こうしたリストラモードの中でも、2005年3月期決算で20年ぶりに過去最高益を更新できた。アラミド繊維やポリカーボネート樹脂の拡大効果が大きい。

 現在の経営は過去のように事業拡大かリストラかのどちらかに極端に走るものではない。バランスの取れた事業運営と評価されよう。その基盤にあるのは学習効果だろうが、前回の事業拡大期に構築された先進的なガバナンス体制も効果を発揮している。外部の経営監督機能の発揮や、IR活動による投資家の意見の集約が生きている。

 05年以降の業績拡大では、新薬の商品化、産業用繊維とポリカーボネート樹脂の拡大などが貢献しよう。事業拡大と構造改革のバランスを取る現在の経営は、残された最後の課題ともいえる国内ポリエステル繊維事業の構造改革にも同時に取り組むと期待される。同社は安定成長企業へと変化しつつある。

 その面では売上高1兆円、営業利益1000億円が当面の目標だ。2010年3月期までには達成したい考えだ。産業繊維、PC樹脂に加え、医療・医薬分野などが目標達成のけん引役となる。医薬・医療は海外販売を強化するとともに、企業買収で早期に売上高を今期の2倍の2000億円に拡大させたいという。